台湾産豚肉の対日輸出について

コラム

2020年6月16日、国際獣疫事務局(OIE)は台湾本島、離島の澎湖及び馬祖を口蹄疫の「ワクチン非接種清浄地域」に認定しました(2020年6月17日TAIWAN TODAY:国際獣疫事務局が台湾を口蹄疫「ワクチン非接種清浄地域」に正式認定)。1997年に台湾で口蹄疫が発生してから、実に23年を経ての清浄化となっており、今後は台湾産生鮮豚肉の対日輸出再開が期待されます。

台湾産豚肉の特徴は、日本のメディアでは以下のように紹介されています。

台湾は亜熱帯地域のため、豚舎は常にシャワーなどにより洗浄し清潔を保っている。豚飼育期間は海外に比べて長く、市場取引時には重量124kgに達する。豚の肉質は甘めで臭みがなく、脂身との口当たりのバランスが絶妙で華人の口に合う。

食品産業新聞社「台湾が口蹄疫ワクチン非接種清浄地域に、生鮮豚肉の対日輸出再開を目指す

日本人が好きな台湾料理には、魯肉飯(ルーローハン)や小籠包、豚肉ふりかけ(鬆)など、豚肉を使用した料理も多いです。台湾産生鮮豚肉が輸入できるようになれば、台湾グルメが日本でももっと身近になることとなり、それ以上に日台貿易全体で見た場合においても大きな影響が期待されます。

そこで今回は、台湾産豚肉の対日輸出の歴史や、日本における豚肉の輸入状況、今後の台湾産豚肉の動向について、整理・調査しました。

台湾産豚肉の対日輸出の歴史

古くから、台湾では豚肉生産が盛んで、国内消費にとどまらず、かつては豚肉輸出も盛んに行われていました。

但し、1997年3月に台湾で口蹄疫が発生、台湾政府は豚肉製品等の輸出を禁止しました。結果として、輸出量の激減から、台湾の豚肉関連製品の輸出は大きな打撃を受けました。

日本においても、1996年度以前は、豚肉の輸入量について台湾産のシェアが最大となっていましたが、台湾での口蹄疫発生により、それ以降台湾からの豚肉輸入金額はゼロとなっています。

【日本の豚肉の供給量(国内生産量+輸入量)の推移】

資料:農林水産省「畜産物流通統計」、財務省「日本貿易統計」
注:数量は、部分肉ベースの値であり、輸入調製品は含まれていない
豚肉 – 農林水産省」より引用。

戦後、日本の農水産物貿易において、台湾は重要なパートナーであり、1990年代前半に3,000億円以上と最大規模となりました。その中でも、台湾産豚肉の輸入が圧倒的に多かったのです。

しかし、1997年に台湾で口蹄疫が発生し豚肉の輸入が禁止されると、台湾からの食料品輸入は大きく減少することとなります。下記グラフの推移からも、日台貿易における豚肉の影響度がどれほど大きかったかが分かるかと思います。

台湾での口蹄疫発生から20年以上経ち、台湾からの豚肉輸入再開の目途が立ってきました。1990年代前半の台湾産豚肉の輸入金額を見ると、生鮮豚肉輸入が再開された場合、日台貿易において大きなインパクトが期待されます。

日本における豚肉の輸入動向と関税の仕組みについて

日本の豚肉輸入国について

平成30年度の日本の国別豚肉輸入量を見ると、アメリカ258千トン(28%)、カナダ223千トン(24%)、スペイン109千トン(12%)、デンマーク104千トン(11%)、メキシコ89千トン(10%)となっています。各年毎に順位の変動はありますが、上位5カ国は概ねこれらの輸出国が占めています。

豚肉 – 農林水産省」より引用。

なお、世界各国の豚肉の輸入量を見ると、日本は中国に次いで第二位と、豚肉の輸入大国となっています。日本は豚肉の消費量に対して国内での生産量が小さく、輸入に支えられているのが現状です。

豚肉 – 農林水産省」より引用。

日本における豚肉の関税について

日本における豚肉の関税は、差額関税制度という特殊なシステムを採用しております。差額関税制度では、分岐点価格(現行524円/キログラム)以下の価格で輸入された豚肉は分岐点価格までの関税が課せられます。つまり、関税込みの豚肉の価格は必ず分岐点価格(現行524円/キログラム)  以上になります(差額関税制度:https://www.maff.go.jp/j/kokusai/tpp/attach/pdf/index-2.pdf)。

結果として、日本の豚肉の輸入価格はこの分岐点価格(現行524円/キログラム)程度で概ね推移しています。この価格よりも安い価格で輸入しても、関税が課せられることで結果として豚肉の価格が分岐点価格以上になってしまうため、この価格以下で日本に輸出・輸入するメリットが業者にはないからです。

【参考】農畜産業振興機構:https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_000073.html

また、各国の輸入豚肉(ロース)の卸価格は以下の通りで、国ごとにそれほど大きな乖離はなく、輸入国別でブランド化はほとんど進んでいないことがわかります。

・2021年冷蔵・ロース(円/kg):米国569円、カナダ620円、メキシコ641円

・2021年冷凍・ロース(円/kg):米国516円、カナダ539円、デンマーク588円、メキシコ572円

【参考】国別輸入豚肉の卸価格:https://lin.alic.go.jp/alic/statis/dome/data2/i_pdf/3050a-3115a.pdf

今後の台湾産豚肉の動向

今後の台湾産豚肉の対日輸出再開までの流れ

台湾が口蹄疫の「ワクチン非接種清浄地域」に認定された一方、現在も豚熱のCSFワクチン(日本も地域限定のCSFワクチンを接種)を接種しています(2020年7月13日:食品産業新聞社「台湾が口蹄疫ワクチン非接種清浄地域に、生鮮豚肉の対日輸出再開を目指す」)。

台湾で豚熱が発生しているわけではありませんが、日本の農水省消費・安全局動物衛生課では、生鮮豚肉の輸入解禁には口蹄疫、ASF、CSFの3つの疾病について清浄性を求めているため、実際に台湾産生鮮豚肉の輸入が実現するのはもう少し時間がかかります。

家畜伝染病予防法において、監視伝染病のうち、病性が激しく、伝播力が強い悪性の家畜伝染病(現在は、牛疫、口蹄疫、CSF(豚熱)、ASF(アフリカ豚熱)及び高病原性鳥インフルエンザ)について、その発生状況や発生地域における防疫措置等により、地域を動物種毎に表のとおり区分し、輸入禁止の物を定めています。

動物検疫所:「輸入禁止地域と物

なお、口蹄疫、CSF(豚熱)、ASF(アフリカ豚熱)についての説明は以下の通りです。

  • 口蹄疫(FMD):口蹄疫ウイルスが原因で、偶蹄類の家畜(牛、豚、山羊、緬羊、水牛など)や野生動物(ラクダやシカなど)がかかる豚等の伝染病。
  • 豚熱(CSF):豚熱ウイルスにより起こる豚、いのししの熱性伝染病で、強い伝染力が特徴の豚等の伝染病。
  • アフリカ豚熱(ASF):ASFウイルスが豚やいのししに感染することによる発熱や全身の出血性病変を特徴とする豚等の伝染病。アフリカ豚熱にはまだ有効なワクチンや治療法はありません。

1997年に台湾で発生した口蹄疫は、2018年7月1日にワクチンが撤去され、上記の通り、2020年に正式に「ワクチン非接種清浄地域」に認定されています。

一方で、長い間、台湾では豚熱は発生していませんが、現在も豚熱の予防接種を受けているため、日本の豚肉輸入の条件を満たしていません。

台湾の行政院農業委員会は「豚病撲滅計画」を掲げ、2023年1月1日から全国の豚と生まれたばかりの子豚への豚熱ワクチンの投与を停止し、7月に全てのワクチン接種を終了する計画です(2022年11月30日:「台灣肉豬將於2023年全面拔針、停打豬瘟疫苗 一年內若無疫情將可擴大外銷生鮮豬肉通路」)。その後、1年以内に流行がなければ、国際獣疫事務局に提出、清浄地域に認定されれば、日本への輸出が再開可能となります。

台湾から見た際の対日輸出の戦略について

現状、日本で一般的にブランド認知されている海外の豚肉はスペインのイベリコ豚等に限られており、多くの場合、日本人は国産の商品が好きなことから、それ以外の国から輸入された豚肉は日本国産豚肉に対して価格面で勝負しているのが実情だと思います。

イベリコ豚程度のブランディングには莫大な費用と時間がかかることが予想されるため、輸入豚肉は基本的に、分岐点価格(現行524円/キログラム)程度の提供ができるかが一番のポイントになるかと思います。逆にこの価格で利益を充分にだせるのであれば、台湾にとって大きなビジネスチャンスになるのではないかと推察されます。

なお、豚肉全般で価格競争が難しくとも、特定の部位に絞れば価格優位性が出せる可能性があります。例えば、日本ではロースやヒレが高級部位とされ、値段も高いですが、台湾では比較的需要が低く低価格な場合、これらの部位に絞って輸出を行うという戦略も考えられるかと思います。

台湾では、わが国で一般に低級部位とされる「ばら肉」および内臓に人気があり高値で取り引きされるため、他の部位を安価で輸出でき、このことも台湾産豚肉の輸出競争力を高める役割を担ってきたと考えられる。 

【参考】台湾の豚肉の需給動向:https://lin.alic.go.jp/alic/month/fore/1999/jan/pork-taw.htm

また、豚肉は上記の通り、関税のシステムが非常に複雑なことから基本的には円建てでないと難しいようです。そのため、為替リスクを輸出業者が負うこととなります。このような為替リスクを負担できるかどうかもポイントになるかと思います。

基準輸入価格の設定は国際貿易上の標準決済である米国ドル建て決済を円建て決済にするなどの変化をもたらした。即ち、外貨建て決済契約では為替変動によって輸入時まで関税がどうなるか、輸入コストすら計算出来ないためである。為替レートは前週5日間の平均が通商産業省から官報によって公表される。このレートを用いて輸入申告される。 

【参考】日本の豚肉生産・流通・消費・価格形成:https://www.jcfia.gr.jp/study/ronbun-pdf/no11/7.pdf

最後に

台湾産豚肉の対日輸出についてまとめてみましたが、いかがだったでしょうか。

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