台湾フルーツの日本での普及について ~戦後の日本市場における台湾バナナのシェア低下からの考察~

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2021年3月、中国は害虫が検出されたとして、台湾産パイナップルの輸入を一時停止しました。台湾で生産されるパイナップルの主な品種「金鑽鳳梨」の年間生産量は45万トン前後、輸出されるのはその1割で輸出先の92%が中国であったため、台湾産パイナップルは苦境に陥りました。

そのような状況の中、日本では「台湾産パイナップルを食べよう」という動きが進み、2021年の輸入量は前年比8倍超の約1万7500トン(財務省貿易統計)と、比較可能な1988年以降で初めて1万トンの大台に乗っています(2022年2月3日 読売新聞:台湾パイナップルの輸入8倍超に…生産農家を支援しつつ「プチぜいたく」)。

日本への輸出増加などもあり、台湾の行政院農業委員会(日本の農林水産省に相当)は2022年3月4日、パイナップル販売支援策の前倒し実施に関する記者会見を開き、昨年の対応策が引き続き効果を挙げているとして今年も問題なく対処できるとの見方を示しています(2022年3月7日 TAIWAN TODAY:中国の台湾産パイン禁輸続くも他市場への販売成功で今年も5千トン以上の増見込む)。

一方で、2022年のパイナップル輸出目標3万トンを達成しても、従来中国に輸出されていた4万1,000トンとはまだ1万トンあまりの差があるのも事実です。

当社においても、パイナップルのみにとどまらず、マンゴーやナツメなど台湾産フルーツの日本市場での拡大施策について、多くのお問い合わせをいただいております。

そこで、今回は、1960年代には日本市場で大きなシェアを占めていた台湾バナナがなぜ衰退したのかを振り返りながら、今後の台湾産フルーツの日本市場展開についての可能性を考察していきたいと思います。

日本市場における台湾バナナの歴史

バナナが最初に日本に持ち込まれたのは、1894年の日清戦争以降のことで、当時、日本領であった台湾から輸入されました。

バナナが最初に日本に持ち込まれたのは、明治27(1894)年の日清戦争以降のことです。日本が領有権を持っていた台湾に自生していたバナナを、産業政策の一つとして着目したことがきっかけでした。農業分野の多くの専門家によって、品種改良などの研究が大変な熱意を持って進められていたといわれています。こうして台湾バナナは安くておいしい大衆果実として成長していきました。

Dole Japan:ドールバナナの歴史を紐解く

戦後1963年になってバナナの輸入が自由化されると、人気のフルーツとなり、全国のスーパーマーケットから大量に求められるようになりました。

このような状況の中、1960年代には台湾バナナは大きなシェアを占めていましたが、60年代後半からエクアドル産が増加、70年代後半からフィリピン産バナナへと急激に変化していきます。今では台湾バナナの輸入量はごくわずかとなっています。

船昌商事株式会社「台湾産バナナについて」より引用

台湾バナナ衰退の背景

なぜ、日本のバナナ市場が伸びていた状況で、台湾バナナのシェアは低下したのでしょうか。

台湾バナナ衰退の理由については、各サイト・文献で以下のように説明されています。

台湾産が減ってしまった原因はフィリピン産との価格差にあります。フィリピンは元々スペインの植民地であったため、輸出作物を生産する大農園が多数ありました。自由化された日本市場向けのバナナを生産するために、これらの大農園で大規模栽培が行われ、安い価格、安定した品質でバナナを輸出することができたのです。対して台湾バナナは小規模な農家が、昔ながらの生産方法を継承しつつ生産しており、価格は高く、品質にバラつきがあるものとなってしまいます。さらに、国内での消費も多く、無理に他国と競争してまで輸出する必要がありませんでした。

船昌商事株式会社:台湾産バナナについて

多数の小規模農家によって栽培されていた台湾バナナでは、季節によっては供給量に限界があったうえ、エクアドルやコスタリカなどの南米産のバナナがどんどん輸入されるようになり、台湾バナナのシェアは次第に減少。危機的な状況に追い込まれていきました。また、台湾バナナは籠に入れて輸送されていたため傷が目立っていたのに対し、南米産バナナは固い段ボール箱のカートンで輸送されていたので、見た目に優れていました。他国のバナナの登場により、台湾バナナのさまざまな欠点が露呈したことも、台湾バナナが市場人気を失う大きな要因だったといえます。

Dole Japan:ドールバナナの歴史を紐解く

産地が台湾産からエクアドル産へ、そしてフィリピン産へと移行したのは、まず品質上の点がある。台湾産は品質にムラがあり国内業者にとって扱いづらい商品であり、また気候条件からエクアドル産は甘味が多く含まれ消費者には好まれていた。次に生産面において、フィリピン産「キャベンデッシュ種」はエクアドル産 「グロスミッチェル種」より反収が多く、病害虫に強いことが受け入れられた。

わが国の果実輸入構造と中間流通業者の役割

これらを整理すると、主に以下のような背景があったと推察されます。

  • 価格競争力
  • 供給力の安定性
  • 品質のばらつき
  • 配送・輸送手段

特に、台湾バナナの特徴として、多数の小規模農家によって栽培されていたことがあげられています。

小規模農家による栽培は商品毎の個性が楽しめるなどメリットも大きいかと思いますが、戦後日本のバナナ市場が大きく伸びていた状況では、供給力の安定性・品質の安定性・低価格などを強みとする、大農園での大規模栽培によるフィリピン産バナナが日本で普及したようです。

また、台湾国内での需要も伸びていたことから、競争が激しくなっていた日本に輸出する必要性もそれほど高くなかったことも背景にあるかと思います。

フィリピン産バナナから見るフルーツのサプライチェーン

次に、フィリピン産バナナが、なぜ日本で圧倒的な市場を獲得できたのかについて見ていきたいと思います。

バナナは、オレンジやグレープフルーツなどの柑橘類、リンゴなどよりも腐敗性が強く、サプライチェーンが非常に重要になってきます。

バナナ流通の特徴は、その輻車奏的な流通経路にある。 その大きな理由として、シトラス類やリンゴといった果実よりバナナは腐敗性が強いことが挙げられる。輸入業者は何日も在庫を抱えることはできず、量を捌くことが第一目標となるため、できるだけ多様な販売ルートにのせて対応していることが大きな理由となっている。

わが国の果実輸入構造と中間流通業者の役割

腐敗性が高いという特徴を持つバナナを大量にさばくために、圧倒的な資本力を持つ大手が、多様な販売ルートを構築して対応しています。以下はあくまで参考ですが、フィリピン産バナナの国内流通経路の複雑さが分かるかと思います。

田中重貴「わが国の果実輸入構造と中間流通業者の役割」より引用

実際、日本のバナナ市場は、強い寡占市場の上位3社の熾烈な競争の中、大手が自社系列の大規模加工施設や流通センターを整備していき、 量販店 ・スーパーと関係を強めながら流通経路を構築しています。

台湾フルーツの日本市場展開

最後に、台湾のマンゴーやナツメなどを日本市場でより拡大していくために、どのようなポイントが重要になるのかについて考察していきたいと思います。

まず、台湾のフルーツの特徴として、ナツメやアテモヤなど日本ではまだまだ知名度が低いフルーツが多くあります。また、上記の通り、大規模栽培ではなく、多数の農家による小規模栽培が多いことも特徴の一つとなっています。

価格競争力

少し古いデータにはなりますが、2011年の輸入国別のマンゴーの価格を見ると、メキシコ産294円、台湾産641円、タイ480円(1キログラム当たりの輸入単価)となっているようです(2011年11月28日 TAIWAN TODAY:台湾マンゴー、日本の輸入マンゴーの22%に)。

またパイナップルについても、フィリピン産に比べ、台湾産は2倍前後の価格となっています(2022年2月3日 読売新聞:台湾パイナップルの輸入8倍超に…生産農家を支援しつつ「プチぜいたく」)。

単純な価格のみで比較すると、他国のフルーツより高くなっていますが、マンゴーにおいてもパイナップルにおいても品質については、日本の消費者に高く評価されているかと思います。

スーパーで日常的に買うフルーツとなるにはハードルが高いかもしれませんが、少し贅沢なフルーツとしてのブランディングは徐々に進んでいるのではないかと思います。

認知度の上昇

ナツメやアテモヤなど、日本では知名度が低いフルーツについては、まずは認知度を上げていく必要があります。

幸い、現在日本では、空前の台湾ブームとなっており、台湾の新しいフルーツはSNSや各種メディアでも取り上げられる可能性は高いかと思います。実際、冷凍アテモヤが日本に進出した際にも、台湾貿易センターの尽力などもあり、TVで紹介されたり、各種メディアで取り上げられていました。SNSなどには台湾ファンの方も多いため、BtoC向けのPRは比較的スムーズに進むかと思います。

一方、台湾の加工食品にも当てはまるのですが、最初にスーパーや小売店での棚を確保する必要があるため、どちらかと言えばBtoB向けのPR・マーケティングに力を入れて、まずは販路を確保することが重要だと考えています。

サプライチェーンの構築

台湾バナナが日本市場から消えた理由を踏まえても、輸出者が品質・供給力の安定につとめ、輸入者が販売網を構築していくことが重要になってきます。

一方で、フィリピン産バナナのように、大きな資本力を持って、垂直統合的にサプライチェーンを完備するハードルは高いため、輸出者と輸入者で綿密にコミュニケーションを取りながらサプライチェーンをすり合わせていくことが重要ではないかと推測します。

例えば、台湾産マンゴーの日本への輸出を例に取ると、サプライチェーン上、以下のような問題も指摘されています。

対日輸出のマンゴーの選別基準が他の輸出チャネルと比較して、厳格に管理されることもあり、農家の日本向け輸出のインセンティブを低下させる要因となっていると考えられる。また、そのことが日本向け安全管理登録システムの登録農家数が増加しない理由となっており、結果的に数量・品質変動を招く要因になっている。

日本市場向け台湾産マンゴー輸出の問題点と輸出業者の対応

サプライチェーンを垂直統合できるプレイヤーが不在の状況では、台湾の輸出側と日本の輸入側の複数の関係者間でそれぞれの課題を把握・解決していく必要があり、高いファシリテーション能力も必要になってくるかと思います。

最後に

台湾産フルーツの日本での普及についてまとめてみましたが、いかがだったでしょうか。

otomap合同会社では、台湾の食品輸入や、スポットコンサルティングなど、幅広い業務に対応しております。台湾食品や日本市場についてご質問がありましたら、「お問い合わせ」よりお気軽にご相談ください。

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